あかあしの足跡

自らの目で見た映画を独断と偏見でぶった斬るブログ!たまに映画以外に漫画も

存在のない子供たち

f:id:anmitunradio:20190706112653j:image

2019年 ‧ ドラマ ‧ 2時間30分

映画『存在のない子供たち』試写会。上映後監督のナディーン・ラバキー監督登壇によるトーク(Q&A)もあり、とても濃密で素晴らしい時間を体験させてもらいました。


中東の社会問題、貧困、不法移民、児童労働をリアルに切り込んだヒューマンドラマ。主人公の少年が、幾多の困難に向き合う姿を鋭く描く。


冒頭、「僕を産んだ罪」という主人公ゼインの発言で否応なくこの作品に惹き込まれた。自分の出生記録や誕生日さえも知らないまるで、幽霊のような(存在のない子供たち)の主人公ゼインと兄妹。学校へ行くことも許されず、両親には朝から晩まで働かされ、心の拠り所であったはずの妹は11歳という年齢で強制結婚させられる世界。子供の人権など無いに等しい、いや全くないこの世界でゼインという幼き12歳の少年の目線を通じ、明るみになっていく中東の闇の数々。映画の世界だけであってくれよと目を背けたくなるような悲惨な光景に終始。心を魂を抉られつづけた。


ゼインに向けられる大人達からの愛なき仕打ち、貧困による劣悪な国の情勢や不法移民、容赦ない現実からの選択、過酷で理不尽な目に幾度となくあい、心が折れそうになりながらも挫けずに何としてでも生き抜いてやろうとするゼインの姿にはただただ圧倒されるばかり、妹と引き裂かれる場面や、ある決断をせざる得ない時のゼインの悲痛な心の叫びには胸が張り裂けそうになった。主人公ゼインを演じた少年は実際に移民で同じ境遇下で育ち学校へいくこともなく読み書きが出来ない素人を集めたストーリーキャスティングだと聞いた時は、納得がいった。特にゼインの強い目で訴えかける自然体の演技は言葉では伝えられない、人の想いを伝えているかのようで彼の瞳を見た瞬間から、ラストまで運命は流転し、真実が解き明かされ絶望の果て最後にたどり着いた両親を告訴するまでの構成は本当に素晴らしかった。作品としても重いテーマなのにも関わらず。ドキュメンタリーとは異なる、リアルな世界観が見る者の心を震わせてくれる。ラストにはこの作品で唯一ゼインが笑みするシーンがあるのだが、そのシーンは監督曰く、「僕達を忘れないで」笑顔は現実世界でも続いていくという意味合いが込められている。


誰にでも幸せになる権利はあり、環境や経済を笠にそれを蔑ろにしてはいけない、ましてやその存在が自分の子なら尚更だ。子供を持つ親の責任者、子供から愛される資格を持つ親の立場を問うかのように、日本でも育児放棄や虐待等の問題が日常的に流れる昨今。遠い国の出来事ではなく、身近にある問題として捉えるべきなのだ。監督曰く、何もしないのは犯罪と同じ。という言葉は、無知であることの罪、それが子を守る立場の大人が理解せず苦しめるなど許せるわけがなく。社会の構造等も知らぬ無垢な子供達、住む世界が環境が人格等を創りあげるように劣悪な環境で育った子供は犯罪に巻き込まれ、そして繰り返すように負のバトンを受け犯罪に手を染めていく。そうならない為にも子供たちが、心から笑える社会、世界になるための希望あるバトンを我々が繋げていく必要がある。

 


鑑賞後。

ラバキー監督と本作のプロデューサーで音楽を担当した夫のムザンナルさんとお子さん(息子さんと娘さん)を連れてインタビューに応えてくれたのだが、監督さんがお子さんをとても大切にしているのが伝わって映画とのギャップが更に対照的に映りこの作品への監督の揺るぎない心情が痛いくらいに伝わってきた。そして、1人でも多くの人にこの作品を知ってほしいと感じた。

 

f:id:anmitunradio:20190706112708j:imagef:id:anmitunradio:20190706112734j:image